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短編部門 02 死にたい夜を過去にして

死にたい夜を過去にして

ペンネーム:子規まきし

 夜が嫌いだ。暗闇は光を鮮明にするから、眩しくて嫌いだ。静寂は音の輪郭をハッキリと刻み込むから、煩くて嫌いだ。
 頭のなかにネガティブな考えが巡って、眠れない夜はやけにさみしい。
  消えてしまいたい、という考えが止まない。
  思い出す記憶。
  そのすべてが恥ずかしくて消えたい。
  そんな日に1通の手紙が届いた。
  その文面はこうだ。
 
  拝啓、眠れない夜に悩む迷子の親友へ
 
   こんばんは。こんばんは、と、言っておく。きみのことだから、この手紙もきっと夜に
   呼んでいることだろう。心臓の音がうるさくて、眠れないと言ったきみを思い出す。
   あのときのきみは、これは笑い話だが、シャイニングに出てくるジャック・ニコルソン
   みたいな顔をしていたよ。
   くだらない冗談を言って、気を悪くさせたならすまない。
   ぼくときみの間柄ということで、許してはくれないだろうか。
   つまらない手紙を、送ってしまってすまない。
   ただ、ぼくもみんなもきみのことを、心配しているよ。
   みんなきみのことを、待っているんだ。
   そして何より、みんなきみが好きだよ。
   これで4通目の手紙で、きみからの返事はまだだが、それは構わない。
   ぼくは何通でも、きみに手紙を書くつもりだ。
   つらくなったら、開けないでくれて構わない。
   この手紙も、いつきみが読んでくれるか分からないから、ここで改めて、久しぶり、と、
   言っておくよ。
   ひさしぶり、調子はどうだい?
 
          敬具
 
  読んでいる。読んでいるよ、いつも感謝してるんだ。
  ただ、ぼくのなかでまだ、整理がつかなくて返事は書けずにいるんだ。
  何通でも送っておくれ。
  いつかこの眠れない夜が、過去の日々になったら、返事を書いて、きみに会いに行くつもりだ。
  それまで、どうか、ずっと友達でいてくれないか。
  と、ぼくはそんなことを思った。




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