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文学大賞 本編部門04 寂しさの行方 作者 風ゆらり

文学大賞 本編部門04

作者:風ゆらり

 「寂しいな」あなたがそう思っているのは、目を見ればわかる。目の奥に、涙のかけらが光っているように見える。あなたがこれまで抑圧してきた哀しみが、やりきれなさが、本音が、抑えられながらもきらきらと輝いている。そんなあなたを見たとき、わたしはあなたがこれ以上ないほど魅力的な人に見える。
 なんで、あなたは寂しさを抱えるにいたってしまったのだろう。あなたが本当はなにかをしたいと思ったとき、そこにはいない誰かの言葉によってあなたの行動が制限されてしまったからだろうか。他人の言葉に傷つき、他人にこころを開くことをこわがってしまったからだろうか。それとも、寂しさというものはそこにあるものだ、なくなるはずもない、と諦めてしまったからだろうか。
 ふと、寂しさを湛えた瞳をした人間と視線を交したとき、わたしはときどきそういうことを考える。わたし、という他人に対してしっかりと振る舞ってくれるあなたは、ほんとうは何を抱えているのだろうか、と。
 最近、自己責任論のようなものが流行っている。すべては自己責任であり、自分で処理すべきというものだ。感情もまた同じで、わいてきた感情を自分でなんとかしないと、人に迷惑をかけるからダメと言われたりもする。たしかに、一理ある。あなたが、誰かが、寂しさを抱えているのは、その人が寂しくなってしまうような選択を、自分でしてきたからでもある。それに、わいてきた感情の暴力性を認識せずに誰かにぶつけて処理してもらおうとするのは、相手のことを想いやれていないともとれる。でも、それらをすべて「自己責任だ、自分の感情くらい自分で処理しろ」と赤の他人が言うとき、そこにはまた違った感情が混ざってはいないだろうか。
 「自己責任だ、自分の感情くらい自分で処理しろ」と言うのは、わたしには、「おれ、わたしは他人の人生には関わりたくない」という主張に感じる。「自己責任だから、こちらにもたれかからないでくれ」「その感情をこちらに処理させないでくれ」という過剰な防御なのかもしれない。もしかしたら、本当は甘えたかった時期に、誰かの感情の処理係を任されていたのかもしれない。それは、はらの立つことだ。人の感情が境界線を超えて入ってこようとするとき、自分の尊厳が踏みにじられた気持ちになるだろう。それぞれの理由でつくられた「感情をこちらに処理させるな」という防御壁の下には「おれ、わたしだって誰にも関わってもらえてないのに、甘えんな」「自分は自分の感情を誰にも伝えてないんだから、君だけがわかってもらおうなんてずるい」という叫びが隠れているように思える。自分への厳しさが、押し殺した寂しさが、他人に転写しているのだ。
 人に対して過剰に厳しい人も、優しい人も、はたまた人に対して過剰にきちんとしている人たちの目に、寂しさが浮かんでいるのを見つけることがある。あなたが他人を縛る言葉のなか、自分を縛る言葉のなか、そんななかになにが隠れているのか。それはもしかしたら、忘れたかったような、なかったことにしたかったような、大事な大事なあなたの感情なのではないだろうか。
 寂しさを瞳の奥に讃えているあなたが魅力的な理由、それは、あなたが感情をしっかりもっているからだ。ついつい人や自分に厳しくなってしまうかもしれないけれど、あなたはちゃんと誰かに愛されたいと思っている。いまさら、恥ずかしくてそんなこと感じたくないかもしれないけれど。感情をもっているあなたは、とても素敵だ。なぜなら、その感情でこそ、あなたは誰かとつながれる。あなたは他人とつながれる可能性を、無限に秘めている。
 大人の人間関係は、弱さの補い合いではなくて、自立した上での交流だという人がいる。もちろん、それで生きていける人はそれでかまわないだろう。仕事上の付き合いなど、有意義ななにかを生み出そうと思えば、その方がプラスに働くこともあるだろう。
 でも、本当はあなたがもっと深いところでつながりたいと思っている、つまり「寂しい」と思っているなら、その寂しさを解消しようとやっきになったり、みないふりをしたりしなくても、大丈夫だ。わたしはそんなあなたとつながりたくて、自分のこころのなかの「寂しさ」にちゃんといてもらっているし、あなたが寂しくなっていった過去の要因を一緒に紐解いていきたいと思っている。ちゃんと愛されたいと想えるあなたが、不器用に愛を求めるあなたが大好きだ。「寂しいんだ」というただそれだけでかまわない。直接的な言葉でなくてもかまわない、あなたの声を、聴かせてほしい。
 言葉は、書くときも読むときも一人だ。孤独だ。だから、言葉を通じてだったら、あなたと直接寂しさで話せないかな、と希望を抱いていまこれを書いている。顔も名前も知らないあなたに、繊細なこころをもった大切なあなたへの言葉が届くことを祈りながら。
 




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