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文学大賞 本編部門15 「特殊な領域」 作者 若宮帳

引きこもり文学大賞 本編部門15

作者:若宮帳

類は友を呼ぶ。

ならば私には類が無い。

誰もいない。
誰一人いない。

つまり、
私はきっと、
唯一無二なのだ。

そんな幻想を抱かなければ、
生きていられる自信がない。

繋がり、役割、他人から得られる、
相対的かつ客観的な自分という人間。

自分という人間を表現するために、
主観のみに頼る日々。

次第に、境界線が分からなくなる。

今この瞬間の私は、私なのか?
それとも、私の中に潜む理想の他人なのか?

鏡に映るのは自分だけ。

私は、
そいつを直視することができない。
そいつの双眼を、
真っ直ぐに見ることができない。

時間が無限にあるようで、
尽きようとしているようにも感じる。

できれば尽きてもらいたい。
人間かどうかも分からなくなる前に、
どうか尽きてもらいたい。

「生きる屍」という言葉を思いついた人に、
私は拍手を送りたい。

生きながら死んでいる、
死んでいるのに生きている。
この奇妙なバランスを、
私はずっと体感している。
死 : 生 の奇妙な割合。
年々、死の割合が増えてゆく。

肉体が機能してさえいれば、
魂が枯れていても、
生きていると言えるのだろうか?
呼吸さえしていれば、
心が反応しなくなっても、
生きていると言えるのだろうか?

涙の意味が分からなくなる。
笑顔とは何かが分からなくなる。
ただの、涙腺のバグ。
ただの、口周りの筋肉の動き。

生きていると感じることにさえ
罪の意識を覚え、
死ぬことが最大の救いだと
安心することで、
生き長らえている。

矛盾。
矛盾。
矛盾。

可もなく不可もない、
どっちつかずの人間。

どうせなら、振り切れたかった。

どこにでもいるような、
代わりのきくような、
誰の記憶にも残らないような、
中途半端な人間としてではなく、
振り切れた人間として、
自分の足で立っていたかった。

ギフテッドに生き辛さがあるのなら、
中途半端な人間にも、当然ある。

平等に、
生き辛さが与えられている。
大小はあれど、平等に。

にも関わらず、
中途半端な人間は、
誰にも理解されない。

甘え。
甘え。
甘え。

私は甘えているのだろうか?
主観的にはそう感じていなくても、
客観的には甘えているのだろうか?

何を基準に生きれば良いのか、
全く分からない。

世界が分からない。

身を切るような風の冷たさも、
身を焼くような天からの罰も、
鮮血のような夕暮れも、
蒲公英の儚さと逞しさも、
人間関係の綻びも、
何もかもが分からない。
忘れてしまった。

最後にこれらを感じたのはいつだろう?

遠い昔のようで、
昨日のことのようにも思える。

一日一日は長いのに、
一年はあっという間に過ぎる。

中途半端な人間に、
引きこもりというおまけ付き。

どこで終わるのか?

得体の知れない心の領域は
誰に理解されるのか?
 




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