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文学大賞 短編部門09 私は、君と繋がりたい。 作者 風ゆらり

引きこもり文学大賞 短編部門09

作者:風ゆらり

 本当は、君も寂しいんじゃないのかい?君だって、本当は、何かが欲しいんじゃないのかい?懐かしい香のする温かい腕があれば抱き締めてもらいたいんじゃ、ないのかい?愛の匂いのするものがあれば、その匂いの元が本当は何だったとしても、縋りたいんじゃ、ないのかい?自分の生命を自分ひとりで抱えなきゃいけないけど、自分の生命は一人で抱えるには重すぎて、逃げだしたいんじゃ、ないのかい?君も本当は、そうやって色々な感情をなかったことにして、涼しい顔をしているんじゃ、ないのかい?

 ちなみに私は、善人が嫌いだ。善人も、社会的な言葉も、嫌いだ。人が二人以上集まったときの、無難な応酬の連続も、嫌いだ。なぜあの人もこの人も、全部全部自分や他人の中にある感情を見ようとしないで、平気な顔をしているんだろう、と思う。「お世話になっております~」「それにしても○○さん、今日もお元気そうで…」パワーバランスが見え隠れするそんな会話の中に、流暢な日本語で「本当に、近頃は物騒な世の中ですよね、カレーも最近は白いですし」なんて文脈のない言葉を加えても、もはや誰にも気づかれないんじゃないかと思う。リズムとテンポと本当の話をしない、ということさえ守っていれば、誰もが何も聞いていないんじゃないかと思う。

 私は、どこかに属する以前の「君」が本当は何に飢えて何を求めているのか知りたいわけだし、私は私の全てを君に伝えたい。許されないとされているらしい感情でも、そこにあるならば仕方ない。私が善人が嫌いな理由は、善人は人間の半分しか見ようとしていないからだ。人間の半分を無視する残酷さを、綺麗ぶってひけらかすからだ。それって、かなり、怠惰でずるいだろう?

 本当を見せてはいけない大人になれなくて私は家の中にいるけれど、
 私達は本当は、もっと繋がれるはずなんだ。

 私は、君という人間を、心の底から、もっと知りたい。




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