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文学大賞 短編部門10 ミッドスリープ・トラベラー 作者 王石しろ

引きこもり文学大賞 短編部門10

作者:王石しろ

 真っ暗だった僕の部屋に、一筋の黄金が差した。
 それはカーテンの隙間だった。どうやら閉め方が甘かったらしいのだ。
 たまらず僕は布団の中に逃げ込んだ。普段はマヌケだのノロマだの蔑まれても、こういう時だけは光を嫌う俊敏な生き物だった。遮光二級と謳われた布よりも、ぶ厚い冬用の寝具の方が、信頼できる。
 父も母も働いているので、引きこもりになった子供を一人家に残すことを大層心配していた。ベランダから飛び降りるんじゃないかとか、交通量の多い道路や、家から一番近い踏切に向かって走り出すんじゃないかとか。あるいは家の中で起こり得る最悪のパターンを予想し、刃物やロープのようなものは目に付くところに置かなくなった。
 僕は呆れて溜息をつく。両親の行動は全てが杞憂だ。
 今の僕は、外へ出ることはおろか、寝返りを打つことすら苦痛なのだ。ついでに言えば、会話も苦痛なので僕の思考が両親に伝わることなどありえない。自室の内側、ベッドの内側、さらに脳味噌の内側に向かってマトリョーシカのように囲われた思想は、絶対外に漏れださない。役立たずのカーテンとは大違いだ。
 眠りから覚めたら、掛け布団と毛布、それからマットレスの地層の合間に挟まってじっと丸まりただ時が流れていくのを待つ。このまま放っておいてもらえたら、僕は化石になれるのではないかと思う。ウン万年後くらいに、〝ヒキコモリニンゲン″発見みたいな感じで。
 けれど両親がそれを許さないだろうし、なにより、体に備わった生理現象が僕を化石に変えてはくれない。横になっていてもお腹は空くし喉も乾く。それを満たすと、今度はトイレに行きたくなるのだ。情けない。僕は遠い未来の発掘を待たずして、布団の地層を自ら這い出ていく。
 相変わらず、部屋はカーテンの隙間だけが輝いている。もうじき夜が来る。僕は閉めなおすこともせず、本日累計十三時間超えの眠りについた。




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