文学大賞 本編部門01
作者:久保田毒虫
僕は幼い頃から親に『何事も謙虚さが大切だ』と過剰にかつ厳しく言われながら、その思春期及び人格形成期を過ごしたのだった。
故に学校で良い成績を残しても、陸上の全国大会で優勝しても、一流大学に現役合格しても、それでも親は褒めてはくれなかった。
むしろ、何故謙虚に黙っていないのかと酷く怒られた。
大人になってもそれらは続いた。それでもまだ親に認めてもらいたくて、誉めてもらいたくて、必死に勉強して航空宇宙工学の博士号を取得し宇宙飛行士になって、更に物凄い倍率の中から人類初の太陽面着陸ミッションのメンバーに選ばれ、遂に人類で初めて太陽面に降り立ってみせても、とうとう親は褒めてはくれなかった。
そこで僕はやっと気づいた。
褒めてくれないのは親だけじゃない。今まで関わってきた人たち全員だと。そして褒めるどころか、僕という存在そのものすらも霞んでしまっており、碌に気づいてもらえていないのだと。
そんな『普遍的及び理不尽な世の中の原則』にやっとのことで気づいた僕は、もはや努力すること自体が馬鹿馬鹿しくなって、次第に家に引きこもって何もしなくなっていった。一切の努力を辞めることにしたのだ。どうせ努力したって、誰一人褒めてはくれないのだから。誰一人気づいてはくれないのだから。
そうした理由で暫く何もしないでいたら、それまで僕のことを見向きもしなかった親が、今度は血相を変えて怒り出した。良い年して仕事もせずに家で何をしてるの。『外に出なさい。仕事をしなさい。努力しなさい』って。
外に出たところで、仕事をしたところで、努力をしたところで、あんたらは何も施しをしてはくれないじゃないか。誰一人何も施しをしてくれないじゃないか。
僕はその理不尽な仕打ちの数々にとうとう我慢の限界に達し、家を飛び出して単身でロケットに乗り込み太陽へ向かった。
そして太陽を地球に思いっきり近づけて、地球上の全ての海を蒸発させ、地球上の海を全て干からびた砂浜に変えてやった。
ざまあみやがれ。これで僕はみんなに気づいてもらえるぞ。
……ところがそんなことまでしでかしたのに、とうとうそれでも誰一人僕の存在にすら気づいてもらえなかったのだ。
それはただ単に皆が世間から目を背け、各々にとって都合の良い情報だけを見る為に下を向いてスマホの画面ばかり見ていたから、ただそれだけのことだったということを知るまでには、途方もない時間を要したのだった。