文学大賞 短編部門01
作者:久保田毒虫
遠い国へと向かう途中で、とうに虹の橋を渡っていったはずの愛犬のポルに逢った。
「ポル! 元気にしてたか? 遂に俺にもお迎えが来たよ。俺はずっと君に謝りたかったんだ。散歩は面倒くさがり、家でもゲームばかりして、終いには俺は不登校になって、部屋から一歩も出れなくなって。うんちをされちゃ嫌だから、終始君を部屋には入れなかった。なのに君は最後まで俺に懐いて、いつも俺の部屋の前に座って、最期は部屋の前で冷たくなってたね。本当にごめんよ……」
その時、ポルが突然、もう随分前に遠い国へ旅立っていったはずの母親の姿に変わった。
「あんた。ここに来るのはまだ早いわよ。心まで引きこもってちゃダメ!」
「……意識が戻りました!」
病室のベッドの横にある、幼いポルを抱く若い母親の写真を見て、俺は暫く涙が止まらなかった。