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文学大賞 短編部門03 美しい子 作者 遠藤さつき

引きこもり文学大賞 短編部門03

作者:遠藤さつき

 自分の顔がこんなに醜いなんて、聞いていない。
 昨日鏡で見た顔より、また一段と醜く見える。
 これじゃぁ、一生苦しくて、一生、引きこもりかもしれない。辛い、辛い、辛い。
「美子、朝ご飯できたわよ。置いておくね。熱いうちに食べて」
 私は引きこもり歴二年の今年二十歳を迎えた、しがない醜形恐怖症患者。自分の顔を醜いと思い始めて早十年。毎日死ぬことを考えるくらいには辛くて仕方ない。鏡を見ると泣きたくなる。ブスを超えて醜い。ダサい。キモイ。死ねばいい。こんな顔の私。
 母が作ってくれた肉じゃがは甘くて美味しかった。人参が嫌いな私の分は、昔から人参が一つしか器に入っていない。これが母親の愛なのだろう。白米も、ふっくら炊きたてで、美味しい。噛めば噛むほど甘い。豆腐とわかめのお味噌汁も、程よくしょっぱくて、昔から飲んでいる味。沁みるなぁ。私は私に優しくないから、こういう優しい味の料理。
 気づけば私は、食べながら、泣いていた。
「うっ、うっ、うぇーん」
 そして、いつもの如く、ドアをドンドンとグーで叩き出した。
「もう嫌! 死ぬ! もう無理!」
 感情に蓋をして生きてきた私は、自分の感情を無視してきたように、家族にも感情を無視される。
「うるせーよ! 静かにしなさい」
 父の声だ。今日は父が休みの日か…。何も、してくれないんだなぁ、相変わらず。一人娘が、辛いって、嘆いているのに。
「美子、何が辛いの?」
 母の声がドアのすぐ向こうからした。
「全部辛いんだよ! なんでこんな顔に産んだのさ! 自分がキモイせいで、外にも出られなくなった。なんでみんなは楽しいのに、なんで私だけ! 死ぬ!」
 自分の感情を今さらぶちまけても、二十年間分の感情があるから、いくら叫んでも、足りない。お母さん、お母さん。
「いくつになっても、どんな美子ちゃんでも、私にとっては、世界一、可愛いのよ」

 外で鳥が鳴いている。顔を侮辱された、あの日みたいに。




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