Skip links

文学大賞 本編部門19 引きこもりの情景 作者 モグマー

引きこもり文学大賞 本編部門19

作者:モグマー

髪が伸びてきた。立てば背中まで達するほどの髪。幼稚園から小学生の頃、可愛い女の子は髪が長かった。憧れがあった。

小学生になったとき、上級生がデブ、ブスとからかい、そのころから容姿への攻撃は続いていた。学年が上がることは嬉しかった。上級生が一年一年いなくなるからだ。
いじめを止めさせようとかつての校長先生が説得しにかかり、一時期やんだことがあったらしい。しかしこのころには全体的に不穏な雰囲気が漂っていた。第一校長先生自体がコロコロ変わった。6年間で4人。大人の事情なんて知らない。まして子供の時には。
体操着が隠され見つかったころには名前の部分が切り取られた状態で埃っぽい場所から見つかったり、図工で作ったものが壊されたり、支給された道具箱がなくなり土に埋められたのか虫が湧き腐った状態で見つかったこともあった。

上級生は下級生に対し足を引っかけて転ばせようとしたり、体育祭で着替えるのに着替え室から下級生を締め出したりした。どうでもいいこと一挙手一投足に関し文句と悪口を言うために付きまとった。

まさか祖母や父も通った小学校がそんなにすさんでいるとは。
何かは忘れたが、近くの中学校と合同になることがあった。
その中学校もよく知らない人間から見れば、一応進学校だ。
そこにかつての上級生たちがいた。散々嫌われていた上級生が。
受験しなくては。当時受験して、いい学校に受からなかった人間が、受験しなくていい公立の中学にいくような空気になっていた。裏付けるように、下級生にいじめをしていた上級生はそこに流れていった。
勉強して新しいことを知ること、学ぶことは嫌いじゃない。割と好きな方だ。
受験をしなくてはいけなく雰囲気はクラス全体を覆った。
やがて教室がピリピリとした空気になった。受験に関する情報も足を引っ張るためのデマなのかわからないものが飛び交う。親が出身者とか裏金とか。やっかみもあった。

学童保育の施設は家に帰っても居場所がない子供のたまり場だった。
親に半ばめんどくさがられて預けられた子供がのさばっていた。嫌な上級生もよくここに溜まってヌシのように数人の仲間とつるみ、練り歩いていた。
お前のためにと言われていたが子供に向き合うことから逃げたような親の子供は、年齢が行かないだけでまだぐれていないだけのようだった。お前のために嫌な仕事をたくさんして疲れてるんだから、塾に通って勉強していい学校に入れと言われているんだろう。そしていい会社に入って、高給取りになって、親に贅沢させろとでも期待されていたのだろうか。
学校の成績は期待されていない子供よりも悪い。そこで挫折感なのか周りに嫌がらせに走っていった。全国には成績のいい受験者なんか山ほどいるのに目先をつぶせば合格率が上がるとでも思っているようだ。

平安時代の美人は長い髪の毛が特徴と習ったが、なかなか私の髪は伸びなかった。
いまと違っていつも活動的であった私はボブカット程度の髪の長さでいることが多かった。
それでいつつ長い髪のあこがれもどこかに持ち続けていた。
生まれてからずっと髪を切ったことのない女性が髪を切ったら1キロ減ったと、テレビ番組でやっていた。
私も伸びてしまった髪を切ったら体重が減るのだろうか。まだそんなに伸びていない。

背中がなんだか痒い。自分では見えないからどうなっているのか、よくわからない。あせもが出来てきたらしい。

ニキビが出来た肌に髪の毛はよくないというように、髪の毛が当たることはよくないようだ。洗ってはいたが、伸ばしてリンスやトリートメントの手入れはしていない。ぼさぼさの髪はもともとのくせ毛が長く伸びたせいで汚らしい長い体毛と化していた。
それとブクブクと太ってしまった体を、汗をかいて小さくしようと無駄に厚着をしてしまったからかもしれない。
くしゃくしゃになった新聞紙の積み重なる部屋。汚い茶色で染まりつつある部屋だ。
新聞紙は元々親のものだ。雑誌や本をためる癖がややある。居間にはいじめに関する数冊の本が積み重なっている。
無理やり学校へ行こうと試みる。心が折れる。出席しなければ内申書で足を引っ張られるかもしれない。保健室登校や課題提出のお陰で、出席日数で留年になることはおそらくないが、これがどれだけ受験に影響を及ぼすのかわからない。

起きている時間は夜へとめり込んでいった。眠れな過ぎてつけたテレビで深夜の荒っぽいお笑い番組が映る。そういえばだれか学校でこのキャラクターの話をしていたような気もする。深夜まで起きていると誇っていたクラスメイトは成績がどんどん落ちて行ってたっけか。

外出して、醜い顔は見せられない。見せたくない。
針金で、首回りから支えるフレームを作り、黒い布で顔だけじゃなく頭全体を覆うようにしたらましなんじゃないかな。誰にも顔を見られなくて済む。
ちょっと遠出をすれば股ずれが起こってしまう。

ずるずると長くし続けた髪を切ったとき私の引きこもりは一区切りを向かえた。

 




Ready forへ参加

応募作品へのコメント投稿、ポストカード、作品集書籍などご希望の方は“Ready for”で『リターン』をご購入ください!

ログインして続きを読む!

既に閲覧の権利をお持ちの方は以下からID、パスワードでログインの上、御覧ください。




Join the Discussion

Return to top of page