文学大賞 短編部門07
作者:やまいも
「いや、信じられないですよ」
関内くんが剃り上げた頭を抱えながら呻く。慣用句ではなくリアルで頭を抱えている人を初めて見た。
市内の農家の梨畑で収穫手伝いの募集があって、希望したサポートステーションの利用者十数名は雨上がりの濡れた地面で靴を汚しながら慣れない収穫作業を行った。関内くんも俺も参加した。それが先週のことだ。
今日、サポステの入った市民会館のカフェでぼんやりしていると、チューター役の葉山さんが通りかかった。「もうこなくていいそうです」と首をかしげながらいった。「何かまずいことしたような、心当たりあります?」
なかった。
僕たちは騒いだりせず、農家の人から受けた梨をもぐ際の注意点にじっと耳を傾けた。関内くんは真剣な顔で手帳にメモを取っていた。葉山さんも引率役でその場にいたのだから雰囲気は分かっている筈だ。
梨畑には梨の木が等間隔で植えられていて、収穫しやすい高さまで成長したら横に枝を伸ばすよう、マス目状にワイヤーが張られていた。
「まるで僕たちみたいですね」と関内くん。何が、と訊くと、「伸び伸び育つよう小さい頃はいわれるけれど、実は決まった規格の中で成長するよう強制されている」
常に上を向きながら、不自然な姿勢で傷つけないように梨をもぐのは思いの外大変で、腕がすぐに疲れ、首も痛くなった。僕より頭ひとつ分小柄な関内くんも腕を精一杯伸ばして頑張っていた。数時間後、汗みずくで作業は終わり、各自梨を二個ずつお土産にもらって解散となった。また近々手伝いをお願いするかもしれない、とそういう話だった。
「理由が知りたい」関内くんは呟いた。「でないと不安だ。僕は何をしてしまったのだろう」
規格外はこうやって黙って弾かれるのだ、はっきり理由をいわないのは寧ろ優しさなのかもしれない、と思った。理由を聞くのが怖かった。でもそうは口にしなかった。
関内くんの腕を引いた。
「葉山さんに、理由を聞いてもらおうぜ」