引きこもり文学大賞 短編部門29
作者:神崎 愛海
 人と関わるのは、疲れる。とにかく疲れる。
 聞きたくもない内容にわざわざ耳を傾け、適当な相槌を打って、ニコニコ笑って、その場をしのぐ。
 こんなことしたくない。疲れるから。当たり前だ。
 でも、世界が「そうできている」。この世界で生きていくには、そうしないといけない。それが分かっているから、僕は今日も愛嬌を振りまいて、周りに合わせて息をする。
 
 人が怖い。気持ち悪い。人間が嫌い。
 みんなみんな、自分勝手だ。自分が一番可愛くて、周りのことなんか……僕のことなんか、見てくれない。
 どうして何をしても、頑張ってみても、僕に人は寄ってきてくれないのだろう。
 僕はただ、愛されたいだけなのに。僕を一番に、見てほしいだけなのに。
 ……なんて、こんな願いを持っている僕も、自分勝手なのだけど。
 あーあ。あの子に向かって叫びたいな。「僕を選んで」って。
 
 自分の部屋で一人、今日も夜を迎えた。
 満月の光が、僕の部屋を照らす。
 誰も僕を見ていない。誰の一番にもなれない。誰も僕を愛してくれない。
 静かで、今この世界には僕一人しかいないような気がした。
 いや、実際そうなったらいいのに。と、僕が夢を見ているだけなのかもしれない。
 左手首から紅い雫が一滴、こぼれた。
 
 綺麗事でできているこの世界が、大嫌いだ。
 綺麗事ばかり吐く人間は、もっと嫌いだ。
 人間なんて、表面しか見ていない。誰も僕のことなんて解ってくれないし、解ろうとしてくれないし、まず見てもくれない。
 僕は独りぼっちだ。
 だから、僕はこの世界で生きたくないと思った。
 「死にたい」のではなく、「生きたくない」。
 死にたいわけではないのだ。でもこんなことを言っても誰にも解ってもらえないだろうから、僕たちは「死にたい」で妥協している。
 でもいつか、解ってもらえる人に出会えると信じて。
 
 僕はもう少しだけ、生きてみようと思う。
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心を読まれたのかと思うぐらい、昔の自分の心情ほぼそのままです。
Permalinkその頃、「まったく同じでなくていいから似たような気持ちの人、世界のどこかにいてほしい…」と思っていて、今も少し思っているので、この作品に出会えて良かったです。