文学大賞 短編部門06
作者:U太
寒空の下、商店街の路上に立って、俺は両手にマッチ箱を掲げていた。
「マッチ、マッチ、マッチはいかがですか! 1個たったの20円! 光熱費が高騰するこのご時世、昭和レトロのマッチで温まりませんか!」
おじさんが怪しい何かを売っていると思われたのか、そもそもおじさん自体が怪しいと思われたのか、通行人たちは無視して通りすぎていった。
「ええい! 半額! 半額の10円でどうですか!」
それでも相手にされない。
このご時世……今どき、マッチなんて。
足もとの大きなダンボール箱には、まだたっぷり入っている。ゴミに出すにもお金がかかるのだ。こうなったら……。
「昭和のレトロなマッチ、タダで差し上げます! ご自由にお持ち帰りください!」
誰も興味を示さない……と思いきや、一人の若い女性、アイドルっぽい可愛らしい子だけが声をかけてきた。
「全部ください!」
ダンボール箱を示した。ゴミを持っていってくれるのならありがたい。
「どうもありがとうございます!」
帰ろうと駅前にやってくると、先ほどの女の子が立っていた。マッチ箱をかかげて。
「マッチはいかがですか! 1個1000円! 私の愛のこもったマッチはいかがですか!」
男たちが群がって買い求めていた。
Opinions
Join the Discussion
コメントを投稿するにはログインしてください。
不条理を詰め込んだようなユーモアに満ちたショートショート。
Permalink思わず唸りました。これは。
読んだあと、「可愛い子」だからマッチが売れたのか、「愛のこもったマッチ」
Permalinkだったから売れたのか、いろいろ考えこんでしまいました。
マッチが商品にみえるけど、実はいろんな価値を交換してぼくらは生きてるなーと、
この作品から気付きをあたえてもらいました。