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文学大賞 短編部門11 辻褄合わせ 作者 はりぽん

文学大賞 短編部門11

作者:はりぽん

「せっかく今家に居るんだから、何かしたら?」
そう言う声が届いたけど、私自身でも何をしたらいいのか分からない。
手始めにストレッチをしてみる。親から真っ先に言われたのが運動だった。家に居て何ヶ月か経過していたのだから、突然軽いストレッチをするだけでものすごく体力の無さを感じる。しかし一日でも、一日の中でそれがたとえ三十分程度でも、私が動いたという事実に少しの進歩を感じた。一番目にするのが運動なのはハードルが高いんじゃないかと疑問に思うかもしれない。だけど今の私には体力を使って何かを実行したという事実が欲しかった。

その次に始めたのが趣味の分野で、引きこもりになってからは遠のいてしまったハンドメイド作品を作ることだった。引きこもりには時間がいっぱいあって、その時間を有効に使えば何だってできる。ここ数ヶ月、私にはそれが出来ないでいた。あまり何をしていたかさえ曖昧で思い出せない。片手でできるネットサーフィンぐらいが私の限度だった。
ネットサーフィン中にとある呟きを見た。『今年もあと残り二ヶ月! 早すぎる』との文面。私には衝撃的すぎて三分ぐらいスマホの画面を見つめてしまった。口もぽかんと開いていたのかも。残り二ヶ月で私にできることは何なのか。焦燥感に駆られてここ何日かはストレッチを続けている。ああ、ダメだ。十五時から少しでも運動しようと思っていたんだった。その後にハンドメイド作るのに必要な材料を並べて、製作に取りかかる。あまり上手くは進まない。秋が深まり冬になるにつれて漠然とした寂しさや焦り、置いてきぼりにされるような気持ちになる。他人よりも一年間の辻褄が合っていないのを日々感じる。それでも。
毎日微々たる進歩だけど、来年を迎える頃には少しの事では息切れる事が無くなっていると信じたい。もしかしたら来年には身体がムキムキになっているのかも!
……私は苦笑いを浮かべ、理想を思い直す事にした。

 




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