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文学大賞 本編部門32 「希望の闇」 作者 U太

引きこもり文学大賞 本編部門32

作者:U太

 謎の行方不明事件が、アタシの住む町で起きていた。この何か月ものあいだ、何人もが忽然と姿を消した。その中には、アタシの知っている生徒や先生もいた。
 近隣の学校はすべて閉鎖され、みんな、自宅待機となった。アタシは元から家に籠っているので関係ない。退屈しのぎに、ネットで事件の情報やら噂話を検索していた。
 掲示板やSNSによると、失踪者はみんな、何かしら問題のある人間だったらしい。性犯罪を犯した元教師だとか、特殊詐欺の末端だった人物とか、駅前で騒ぐヤンキーたちとか、店員に土下座させる悪質クレーマーとか。
 子供を虐待する親もいたらしい。ざまあみろ、だね。ウチの家庭もそうだったから。あと、アタシが学校に行けなくなる原因を作ったいじめっ子たちも、行方が分からないとのことだった。

 必死に捜査する警察のもとには、目撃談が舞い込んでいるらしい。深夜に人が引きずられているというのだ。引きずられた人は地面との摩擦でズタズタになって、もはや人間の形をしていないほどだったという。
 そして、引きずっているのも人間。馬鹿力で勢いよく引きずるって、人間なのか? 警察が追っても見失ってしまうほどなのだから。
 なんかね、この犯罪者、ヒーローだね。悪い奴らを始末してくれるんだから。暴力はいけないんだろうけど。でも、暴力で解決することだってあるんだよ。
 だから、このヒーロー、アンチヒーローかな、その活躍が知りたくて、ますますネットにのめり込んだ。
 目撃情報はさらに増えた。このモンスターのような殺人鬼は、どうやら女の姿をしているらしい。白い服を着て、顔が隠れるくらいの長い黒髪で。まるでホラー映画みたいじゃないか。
 どんどんやれ、殺人ヒロイン!

 玄関のチャイムが鳴った。
 ここのところアタシは毎日、フードデリバリーのお世話になっていた。置き配設定にしているのに、ずっとチャイムを鳴らし続けてくる。仕方なく、アタシは玄関前に立ち、ドア越しに返事をした。
 外から声が聞こえた。
「警察の者です。森さんのお宅でしょうか? お話をお伺いしたいのですが」
 両親は不在と答えた。ずっといないのだ。
 それでも警察はしつこくドアを開けるよう訴えた。アタシが無視し続けると、ついにドアをぶち破ってきた。
 家宅捜査が始まり、室内や庭から大量の死体が発見された。
「森妃姫子さん、警察までご同行願えますか」
 どうやら、アタシを殺人のヒロインと思っているらしい。いくらアタシが白い服を着て、顔が隠れるくらいの長い黒髪だからといって。
 刑事がアタシの手をつかんだ。同時に、アタシは驚異的な力で刑事を引っ張り、路上へと飛び出した。
 ひたすら引きずり引きずり引きずり、アタシは走り去った……。




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