引きこもり文学大賞 短編部門04
作者:西賀はち
目を覚ました少女は、辺りを見回す。
「……………………」
彼女には色が無かった。彼女の周囲にも。
白と黒。濃淡のみで描かれた世界。それが彼女の部屋だ。
少女はベッドを離れ、大きな本棚の前に立つ。
「今日は何を読もうかしら」
そこには色に関する様々な書物が並んでいる。少女は棚から一冊を取り出し、床に座って読み始める。
「この本には、人の体には赤い血が流れているって書いてある。でもそれは嘘よ。だって前に紙で指を切っちゃったとき、出てきた液体は灰色だったもの」
少女は呟き、ページをめくる手を速める。
「これも、特に新しいことは書いてないわね」
本を閉じて棚に戻す。
「朝食のお時間です」
少女が振り返ると、そこには全身を白い衣装に包んだ女性がいた。
「今日のゼリーは苺味です。苺は何色か分かりますか?」
女性は透明なゼリーの載った白い皿を少女へ渡す。
「赤と白、へたは緑色よ」
少女はゼリーを白いスプーンで掬いながら答える。
「正解です。よく勉強なさっていますね」
「もうあの本棚にある本は一通り読んでしまったわ」
「そうなのですか。ではそろそろ頃合いですね」
女性は懐から一枚の紙を取り出す。
「ここに正三角形が描いてあります。何色で描かれているか分かりますか?」
「……………………」
「なるほど。では次に」
女性は懐から銀色のナイフを取り出し、少女の暖かな腹に突き刺した。
「いっ……」
「もう一度訊きます。この正三角形は何色で描かれていますか?」
「…………赤、色」
「素晴らしい。これで実験は終わりです。お疲れ様でした」
『報告書
第一段階:認知失敗
第二段階:認知成功
備考・血液より先にナイフを見られた可能性がある。ゴーグルの機能改善とともに再度検証するのが望ましい』