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文学大賞 短編部門02 ゴミ箱 作者 窓際

引きこもり文学大賞 短編部門02

作者:窓際

背中が痒い。
痒い。
全身が痒い。
心さえ痒くなってきて、掻けない。
服が煩わしい。
靴下を履かなくなってから、体を起こすのが億劫で億劫で仕方がなかった。
隣のティッシュ、壁側のクッション、足元の布団、無の空間、淀んだ空気に囲まれて瞼を閉じる……はずもなく、飽きもせずそれを手に取る。
板。
スマートフォンから光をうけて、手の内側が少し光っている。
良くない。
こんな時間まで何をしている?
寝ればいいのに。
悲しいことに、この板がないと気が済まない。
でも寝れない。
板が手元にあったから、寝れない。
君はどんな理由があれば板を手放すのか。
そうだなぁ、もうスマホが手元にない日があるなら死んでいるのではないだろうか。
パソコンでもいいけど、布団から出ずに済むから手元にはやっぱり板状のこれがないと。
辛いなぁ。
いつまで画面をみれば気が済むのか自分でも分からない。
気なんて、一生済まないのではないか。
グミの袋からはグミの甘い香りがして、ガムのボトルからはミントの甘い香りがして、菓子パンの袋からはバターと砂糖の交じった甘い香りがして、そのまま空っぽな心から甘い香りがすればいいのに、無かった。
匂いなんて、無かった。
それどころか少々苦い味がするこの虚無を、どうやったら健やかに満たせるかわからなかった。
ああ、このまま時が過ぎても何も変わらないし、何も生まれないし、何もないだろう。だけれど、悲しみが生まれることもまた、ない。
こんな風に、虚しい気持ちでスマホを触っていることさえ悲しみの一部であるとするなら、もうこの人生さえ悲しみの航路である。
虚しい。
時間が過ぎている。
ふと、呼吸を思い出す。
今、食べ物の空袋が詰まったゴミ箱から、甘さを煮詰めたくどくて寂しい怠惰の香りがしている。




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