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文学大賞 短編部門06 匂い 作者 非常口ドット

引きこもり文学大賞 短編部門06

作者:非常口ドット

私は『匂い』で人の感情が分かる。といっても分かるのは、相手が今抱いているのが正の感情か?負の感情か?くらいだが。
正の感情の匂いは甘く、負の感情は酸っぱい匂いだ。
この能力があれば人に好かれるのなんて簡単だった、私の言動で甘い匂いがした時はそれを続け、酸っぱい匂いがした時はそれを止めれば良いだけだ。
でも、ここ最近は上手く行かない。どの人に近付いても酸っぱい匂いが漂っていて、みんな私を悪く思っている。こんな能力要らない。人が怖くて怖くて仕方がない。
そうして人と会わなくなり、自分の部屋から出なくなり、ネットの世界にのめり込んだ。オンラインは良い。匂いがしないから。
…人と会わなくなってから何年が経っただろう?最近SNSで同じ能力を持つ人と知り合った。
もしかしたらこの人となら分かり合えるかもしれない、会ってみたい。
そう思った私はメッセージを送るところから始めて、徐々に徐々に仲良くなり、何とか会う約束を取り付けた。
約束の日、その人の話をいっぱい聞いて、能力のことも色々と教えてもらった。そして最後に一言「あなたは人を見た時には必ず、酸っぱい匂いが強くなっているね。」と教えてくれた。
あぁそうか。どの人に近付いても酸っぱい匂いが漂っていたのは、きっと自分から出た匂いだったんだ。他人の感情に怯えて負の感情を抱いていたのは私だった。
そう考えると少し救われた気がした。
ひょっとしたら真実は、あの当時は本当に全員から嫌われていて、自分から酸っぱい匂いが出ていたというのが勘違いかもしれない。
でも、昔の匂いなんて証明できない。私は私が救われた方を信じることにした。




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