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文学大賞 短編部門22 「それを忘れて」 作者 加島香菜子(カシマカナコ)

引きこもり文学大賞 短編部門22

作者:加島香菜子(カシマカナコ)

高校生、大学生、というワードや、元気に、普通に、溌剌に、生活している、していたという話を聞くと、33歳になった今でも、(もう10年以上経ったのに)顔を俯けたくなることが多かった。大多数の人が通った、高校卒業という通路から、逸れて、高校3年生の夏、私は自室に引きこもっていた。一体何をして。いや、何もできなかったから、部屋に居たのよね。毎日何を見ていたのかな。引きこもること、が終わったあとも、長い間、ふつうが出来なかったと振り返って思う。「欠落しているのだよ」、「どこかおかしい人間だ」と自分に呪いをかけていた。統合失調症を発病したのも、呪いの拍車をかけることになる。数年かかって、いろいろなことが落ち着き、暮らす中で、しばらく経つと、その「ふつう」さを渇望し、淡々と毎日を送ることに、やっと手が届き、いつのまにか包まれている。先日、ふとしたきっかけで、知人に私の印象を聞いてみると、「心からの良い意味で、普通だと思います。」と、言う。そして、誰かが言っていた「10年以上前の自分は他人だと思っていい」ということ。あの頃、母と交換した手紙。どこに行っただろう。ガラスに血を滲ませて置いておこうと試みたこと。朝焼けの美しさに気づいた朝方。早く出会いたかった物語の世界。もう、誰にも見せなくていい、その頃の自分は今でも痛々しく、どこかで生きていたら。私はもうそれを忘れて、たまに思い出して、手を合わせて、祈る。
 




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