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文学大賞 短編部門25 冷凍保存 作者 多様体に住んでいる者

引きこもり文学大賞 短編部門25

作者:多様体に住んでいる者

「礼子。なんでなんだよ!!」
雪降る都市の中で、男は呟く。

礼子は重症だった。冬場の交通事故だ。婚約を約束したのに、なんでいつもこうなんだ。

「先生、なんとかなりませんかね?」
男は息巻いて、必死に病院の先生に訴えた。

「方法はまだある」
病院から太陽の木漏れ日が老年の医師を照らしていた。

「人体冷凍保存だ」
医師は言う。

「そりゃ、あれですかい!? 人体を冷凍保存して、脳死状態にして、治療を未来に託すっって」
男は言う。

「そうだ。それしか礼子さんが助かる方法がない」

男はしばし、思案していたが、やがて、呟いた。

「頼む。俺も冷凍保存してくれ。礼子がいない世界では生きていけないんだ」

医師はしばし考えてから言う。

「わかりました。あなたも冷凍保存しましょう」

男は特殊な施設に連れられた。隣には礼子がいた。

「必ず助けるからな。礼子。未来でまた会おうな」

それから、どのくらい時間が経っただろう。男は起き上がった。
外は開かれた空間の中で、大小様々なロボットが浮遊していた。
扉の前には、生きている礼子が立っていた。男は涙を流す。

「おかえりなさい」
礼子が言う。

「ただいま」
男はゆっくりと未来の世界の中で立ち上がった。

 




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