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本編部門 02 猫のいる公園

猫のいる公園

ペンネーム:子規まきし

わたしは眠れない。いや、眠れない、というのは、間違いか。正確には、人が寝ている時間に起きていて、人が働いている時間に寝ている。
つまり、夜、動く、ということ。
平たく言えば、昼夜逆転である。
夜の公園には、友達がいる。
時刻は、午前3時、わたしは簡単な食べ物を持って、友達と、落ち合う。
ベンチに座ると、物陰から、その子は、そっと現れる。
茶色と白のフサフサしたその子は、小さな、猫だ。
もう、いつ頃からか分からない。
わたしは毎夜毎夜、その公園へ行く。
煮干なんかを持っていく。
友達は、にゃあと言って、わたしに懐き、話を聞いてくれる。
なんとなく、こちらの言っていることは、わかるんじゃないか、と、思っている。
出会った日のことを、いま、思い出した。
バイトをバックレて、実家に帰った日のことだ。
わたしはミュージシャンになりたかった。
東京で、バイトをしながら、音楽活動をしていた。
しかし、28歳になって、クレジットの支払いや毎回のライブでのチケットノルマに追われる日々に、あるとき、たえられなくなった。
バイトから帰る駅でのこと。
急に、涙が出てきて、止まらなくなった。
もう、全部、辞めてしまいたい、と、思った。
その次の日、バイトをバックれた。
その日から、夜は眠れなくなった。
なんとなく気分が塞ぐ日が続いた。
心療内科で、軽い鬱の薬と睡眠薬を貰った。
薬を貰ったが、こわくて、飲むことができない。
いまだに、薬は、飲んでいない。
結局、実家に帰ることになり、夜も眠れない日が続いている。
しばらく、誰とも会っていない。
そんな夜、フラッと立ち寄った公園で、その子と出会ったのだ。 わたしは、すごいミュージシャンになりたかったこと、それは、中学時代からの夢であること、音楽で人を救いたいと思っていたこと、その夢を諦めてしまった自分がとても嫌いになったこと、そんなこと、こんな夜の公園で猫に話している自分がカッコ悪い、と思ったが、もう、カッコつけるのはやめたのだ。 友達はただ、にゃあと言って話を聴いてくれた。
そうやって、夜、友達と公園で会う日々が続いていた。
しかし、あるとき、公園に行っても友達は現れなかった。
それから数日、わたしは誰もいない公園で、煮干を食べていた。
なにか、事故にでもあってしまったのだろうか、心配になって、いろいろなことが頭に廻った。
でも、あるとき、わたしは公園にはいかなかった。
もう、あの夜の公園には行かない、と、決めた。
その夜、随分と久しぶりに、眠ることができた。
そこで、夢の中に、若い男の子が出てきた。
しらない男の子のはずなのに、わたしには、とても懐かしい人のように感じた。
わたしたちは、ふたりで公園のベンチに座っている。
「いつも、ありがとう。いままで、ありがとう。ぼくは、いつもきみのすぐ傍にいるよ。夜は、眠って、たまに、ぼくのことを思い出してね」
と、男の子は言った。その子は、いつも夜の公園で会っていた猫だと、思った。
「わかった」と、わたしは言った。「わたし、また音楽をやってみる。働きながら、社会人バンドみたいな感じでもいいし、なんだか、これからはもっと気楽に、肩の力を抜いて音楽ができる気がする。こちらこそ、ありがとう」
この夢が、もうすぐ終わることが、わたしには分かった。
「最後に、ひとつお願いしてもいい?」と、わたしは言った。「また、もしわたしが行き詰まったり、悩んだりしたとき、また夢に出てきてくれる?」
男の子は笑って、頷いた。
目が覚めると、もう、朝の7時だった。
とても、暖かい夢を見ていた気がするが、おぼろげにしか思い出せない。
ただ、もう一度、音楽をやってみたい、という気持ちが沸き起こっていた。
弦の錆びたギターに、もう一度触れてみる。
ひさしぶりに、歌を作ってみた。
タイトルは、「猫のいる公園」。
いつも、傍にいてくれる友達のことを、歌った歌だ。




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Opinions

  1. Post comment

    夢の中の男の子が、猫である、とハッキリはわからないところが、良い感じでした。自分の無意識の声とも考えられるし、猫とも考えられる。どちらにしても、前向きになれたらいいのだ、という主人公の覚悟を表現している気がしました。

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