引きこもり文学大賞 短編部門21
作者:心環一乃
僕は人間が苦手だ。
話せば揚げ足を取ってくるし、近づいてくればちょっかいしかかけてこない。幼稚園の時は腹を立てて拳で語ったことがあったけど、幼稚園の先生は「喧嘩はいけない」と僕と絡んだ子の両方を叱った。喧嘩両成敗が納得できるほどあの頃の僕は大人じゃないし、頭も良くない。唯一学んだのは「大人は味方なんかじゃない」ということだけ。
小学生になっても、僕は周りに絡まれ続けた。勉強、運動、給食、トイレ、下校と。何がそんなに面白いのだろう? 原因がわからない。両親に訊いても「何も悪くない、今のままでいい」としか言ってもらえない。今のままが苦しいのに。
僕の気持ちをわかる人など、誰もいないんだーー。
「学校に行きたくない」小学四年生の時に初めて家の中で喚き散らして部屋に閉じこもった。ドアを叩く音には「うるさい!」と怒鳴り返し、ドアの前に置かれた食事にも二日間、手をつけなかった。
引きこもりの日々が始まった。ドアの前に置かれる食事を食べ、部屋の中でできる教材で勉強をする。外出はトイレと最後のお風呂だけ、家の外には一切出ない生活。
それから三年……十三歳になる前の夏、父さんが「旅行に行かないか?」と尋ねてきた。キャンピングカーの免許と車を買ったから、誰もいない所に行こう、と。
驚いた。三年ぶりに家のドアをくぐると、本当にキャンピングカーがあった。安い買い物ではないはずなのに。理由もわからず頷いた。
出発は深夜だった。ベッドに寝たままで良かった。朝になって着いたのは、誰もいない、一面のひまわり畑。
眩しかった。目に入るもの全てが。息を呑む。空気が美味しいのだ。
「父さんと母さんで相談したけど、あの町が嫌なら引っ越そう。お前が堂々と外を歩ける場所に行こう。そのためなら父さん、仕事も辞める。今までごめんな」
見ようともしなかったものに触れたその日、僕はポロポロ泣いた。
Opinions
Join the Discussion
コメントを投稿するにはログインしてください。
納得できない経験や引きこもりの時間があって、暗い中に身を置いたからこそ、世界が眩しく見えたのかなと思いました。
Permalink